中庭の出来事/恩田陸

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★★★★☆
 「中庭にて」「旅人たち」『中庭の出来事』という三つのパートが交互に語られて、「中庭にて、旅人たちと共に」で、エンディングを迎える。
 いつものように非常に上手い出だしで、読者をひきつける。そして読者は、魅力的なエピソードにくらくらしながら、わけもなく恩田ワールドに引き込まれてゆく。
 読み始めてすぐに、不可解な死を遂げた脚本家の死の謎がでてくる。その「真相」を二人の女が語ってゆくのだが、「女」という記号を使っているため、果たして真実はどこにあるのか、いったいこれから何が起こるのか、漠然としていて、不安感でいっぱいになっていく。と思うと、ここで、片方の女に異変が起こる。
 それぞれのパートが中庭に関係しており、殺人も起きているらしいが、各パートとの関連性が見えてこず、そのまま読み進めるしかない。挙句の果てに、三人の女優が出てきて演劇が始まるのだが、まるで「チョコレートコスモス」のような雰囲気である。このお芝居の部分が本格ミステリか。いや、どうもそう言い切ってはだめなようだ。   
 パートごとに、なんどもなんども同じ話を語り手を変え、少しずつズラしながら語ってゆくのである。そのため、話が幾重にも折り重なって、まるで入れ子状態である。読者はだんだんと不安になり、足元はぐらぐらしてゆく。仕舞いには、いったい自分は何の謎解きをすればいいのか、また何を信じて読んでいけばいいのか、眩暈までしてくる始末である。
 虚構と謎に満ちた話である。恩田特有の妖しく美しい表現が散りばめられ、物語はますます魅惑的になってゆく。それと共に謎は謎を呼び、いよいよ藪の中?ああ?
 ということで、エンディングで怒らないように。
 なかなか素晴らしい作品。恩田ファンにお薦めしたい。