使命と魂のリミット/東野圭吾

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★★★
 凡作。
 ある目的のため、研修医の夕紀は心臓外科医を目指していた。過去に起きた父親の死の疑惑。と、現在起きている病院への脅迫事件の二つが同時進行で語られていく。「使命」を果たさなかったといって脅迫する犯人。目的を果たすべきときに手術室を危機が襲う。それぞれの「使命」とは。
 相変わらず、すいすい読める平易な文体。これ自体は読みやすくていいのだが、複雑な心理描写を期待しているわたしとしては物足りなく感じられた。と同時に、会話でストーリーを進めているようなところがあって、状況説明が多く、会話文にまったく魅力がない。後半、一気に盛り上がったものの、とくに前半にそれが見られ、盛り上がりに欠ける。この説明的な描写は、医療過誤という微妙な問題を扱っていることを考えると、もっと書き込んで欲しかったと思う。
 ミステリとしては大どんでん返しもなく、話の展開は予想できるものであり、大きな驚きはない。ただ、泣かせどころはしっかり押さえており、終盤は一気に読者を引き込んでゆき、目が離せない。東野圭吾の真骨頂がでて、面目躍如というところか。
 総じて、緻密な取材を随所に感じられたが、医療サスペンスとしては安易なヒューマニズムが感じられて厚みがなく、「使命」という言葉を頻繁に使うことで安っぽい小説になってしまっていた。流して書いたのでは、とまでは言わないが、東野圭吾に期待する気持ちが大きいため、そう思われても仕方がないのではないか。ということで、残念ながら最近の東野作品から期待されるようなカタルシスは得られなかった。