薄闇シルエット/角田光代

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★★★★★
 ああ、やっぱりわたしは角田光代の小説が好きだ。その辺によくいる女の子(おばさんかもしれないが)の本音を聞くのが好きだ。主人公の悩みや苦しみを、自分ならどうするかしら、と思いながら読むのは面白い。主人公が自分のことを幸せだと感じるのは、どんなときなのかしら、と考えるのは楽しい。この小説がまさにそう。じんときて、切なくなるほど面白かった。
 主人公のハナちゃんは、37歳、独身。こんなふうに書くと、なんだか初っ端からわけもなく喧嘩腰に聞こえるから不思議だ。だけどこの小説はこの年齢設定だから、面白い。
 37歳なんて若くていいな、と思うわたしは、だけどやっぱり37歳は後がないんじゃないかなと思ったり。いや、こんなこと言っては失礼だと思うけど、女性の37歳で独身というのは、やっぱり色々としんどいんじゃないかなと思うわけ。ほんとに余計なお世話なんだけど、まだ吹っ切れてない何かがあるんじゃないかと思うのね。
 独身といっても、ハナちゃんは勝ち組と言っていい。親友のチサトと一緒に経営している古着屋はそこそこ儲かっているし、腐れ縁とはいえ気の置けない恋人もいる。周りが結婚しても、親友のチサトは独身だし、マンションには泊まってくれる恋人もいるし、何より自分で経営している店を持っているのだ。それはもう強気な発言がバンバン出てくるのは仕方がない。
 結婚している人が偉いのかと、チサトに詰め寄ったり、一人取り残されるという寂しさはあっても、やっぱり嫌なことはしたくないし、ましてや恋人から「結婚してやる」「ちゃんとしてやる」なんて言われた日には、かちんときて、どうしてわたしがそこまで言われなくちゃいけないの、と思ってしまうのはしょうがない。
 たしかに、人生にはつまらないと思うことはたくさんある。そしてハナちゃんは、そんなつまらないことより楽しいこと選んだのだ。と、思った。選んだそれは、でも、ハナちゃんをちっとも幸せにはしてくれなかったようだ。
 読めば読むほど、なんだかハナちゃんと一緒になって、それでいいの、と問いかけているし、悩んでしまっている自分がいる。だけど、考えて考えて読んでいった小説は最高に面白かった。
 角田光代の小説は、社会参加のあまりない、どちらかと言えば身近な話で作られていることが多い。登場人物が自分勝手だったり、平凡な女性であったり、苦手な人だったり、あるいは自分と似ている嫌な奴だったり。だけど、その狭い世界を、自分でも気付かない心のひだを丹念に描いてくれているからいいのだ。心理描写がリアル過ぎて胸が痛くなってくることはあっても、最後には、それが感動になっているからいいのである。だからそういう小説は、読んでいてもとても面白いし楽しい。
 お薦め。