顔のない敵/石持浅海

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★★★★☆
 購入本*1や図書館本を大量に抱えているものだから、「対人地雷」なんて気の重くなるような本なんてじっくり読んでいる暇なんてないよな、とけしからぬことを思いながら読み始めた本。が、これが予想に反してとても面白かった。
 地雷シリーズというらしい。これが6編。と、他にデビュー短編1編が収められた短編集。地雷シリーズはすべて良かったが、地雷が登場しないデビュー短編のほうは、はっきりいってしょうもない作品である。これを、作者はこの機会を逃すと永遠に収録先が見つからないような気がしたといって最後に持ってきているが、このせいでせっかくの地雷をテーマにしたミステリーの感動が台無しになってしまった。なんでこんな貧乏臭いことをしたんだろうか。憎まれっ子のサイモンを二度出してきていたので、当然アネットが地雷で死んだときの状況を坂田の口から話してくれるんだろうと楽しみにしていたのに、最後が狭い空間でひたすら議論している地味な作品だったので心底がっかりした。ということで星半個減らしてしまった。
 そうやってみると、いつも変な場所でひたすら議論しているのが石持作品だった。あんまりしつこくいつまでも議論しているので、半ばうんざりしてしまうのだが、今回は短編なのであっさりとさくさく進んでくれて助かった。また、内面が描けてなくて動機に納得いかないこともよくあることだし、今回もそれがなかったとは言わないが、地雷という難しいテーマを巧く料理して論理的な本格ミステリに仕上げた手腕は見事だった。決着のつけ方については賛否両論あると思うが、これはこれで割り切り、それより対人地雷について各個人で真剣に考えるほうが重要ではないだろうか。
 ミステリとしてとても楽しめた一冊である。
 お薦め。

*1:垣根涼介「真夏の島に咲く花」等