シャドウ/道尾秀介

Amazonで詳細を見る


★★★★★
 これは素晴らしい。
 ミステリ通が傑作だと太鼓判を押していたが、評判が良かったのか悪かったのかいまいち判らない「向日葵の咲かない夏」は読んでないし、話題になった「背の眼」も「骸の爪」もスルーしてきたものとしては、こんな暗い表紙カバーには触手が動かないよなというのも、さもありなん、という感じじゃなかろうか。なんか気色悪いし。新人作家みたいだし。
 だけど、わたしの好きなミステリ・フロンティアというのものあって、あらすじ見ると、これが興味深い。母親が病気で死んだり、飛び降り自殺したり。小学5年生の少年と幼馴染の少女が悶々として、挙句の果てにとんでもない真実が待っている、というのでは読まずにはいられない。しかも読んでいくうちに、彼らの父親は医者のようだが、どうも精神的におかしくなっていくようなのである。
 うわあ。完全にやられてしまった。途中、騙されたのが判って、のけぞってしまったが。だけど真実を見つけるのは、実はそれほど難しくはないかな、と、強気の発言をしておこう。内容の一部について好き嫌いがあるかもしれないが、ともかく非常に良くできたミステリであることは間違いない。
 視点が交差するという判りにくさも、抜群のリーダビリティによって、難なくクリアしているし、しかも、緊迫した状況から心理描写まで、読ませどころもたっぷりとある。もちろん怪しい箇所もたっぷりとあるのだが、いちいちそんなことに構っていられないくらい、面白いのである。これは傑作。他の作品も読みたい。
 お薦め。