ピース/樋口有介

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★★★★☆
 秩父の田舎町でバラバラ殺人事件が起きた。それが東京で起こった殺人事件と同じ手口だった。というので、捜査一課の巡査部長、坂森がやってくる。また、地元紙の記者である香村麻美は、恋人が事件に関わっているのではないかと心配して独自に調査に乗り出す。
 三件もの殺人が連続で起こるのだが、犯人が誰か、というよりまず被害者の共通点が見つからない。結局、この共通点には心底びっくりさせられてしまうのだが。オチのほうにも一ひねりあってびっくりした。ま、これはここまでひねらなくてもと思ったのも正直なところだが。
 動機は納得。手口は容赦なく。読みどころはまさにここにある。題名の“ピース”という意味もここで判る。なぜ舞台が秩父でなければならないのかも判ってくる。実に素晴らしい。ああ、そういえばこんなこともあったな、としみじみ思うのである。
 ところで、舞台が秩父というのは違う意味で面白い。秩父は池袋から特急で一時間とはいえ、三方を山に囲まれた、埼玉県の中でも孤立した場所である。埼玉に住んでいても知らないこともたくさんあって、興味深く読めた。まあ実際、のどかな田舎町でそうそう殺人事件なんかが起こるわけがないのであるが、この設定が身近に感じられて、なおいっそう面白かった。捜査陣は血眼だが、巡査部長の坂森は定年間近でやる気があるのかないのかマイペース。地元の刑事たちものんびりとしたものである。方言が頻繁に出てきて笑いを添えてくれて、実に楽しかった。
 そんなふうだからか、文章は現在形で叙述は少々まどろっこしい。話はゆるゆるとしか進まないのである。ということで被害者の共通点には物凄く興味をそそられるのだが、視点も変わるせいか、読み終わるのに結構時間がかかってしまった。
 とはいっても、樋口有介のこのまったりした語り口は嫌いではないし、アンティークなジュークボックスから流れる曲もいちいち懐かしかった。ちょっと変わった主人公も好感が持てる。
 今回も、主人公の一人であるバーテンダーの梢路がほとんど喋らなかったりと、流れる空気がまったりしていて良い。ぼそぼそ話す内容が、若いのに示唆に富んでいるのにはうれしい驚きだった。
 この老成した青年はいったいどんな人生を歩んできたのだろうか。母親との親子関係はどうなっていたのだろうか。そしてまったく喋らなかった酒飲みの女子大生、樺山咲の存在も謎。梢路との関係は中学の同級生というだけではないような気がする。そんなふうに読者に気を持たせるだけ持たせておいて次回に続くとなっていた。
 多くの謎が残ったままなのできっと続編があるのでしょう。楽しみ。