白眼子/山岸凉子


白眼子
白眼子
山岸凉子

潮出版社 2000-11



Amazonで詳しく見る


 ★★★★★
 先日、やっとこさ「舞姫 9―テレプシコーラ (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)」を買ってきて、何度も何度も繰り返して読みました。やっぱり山岸凉子は天才だ。面白かった。というのは、ほんとにそうなんだけど、最近の事情を知って改めて読んでみると、それは「切ない」なんて気安く言えるものなんかじゃなくて、ほんとに山岸凉子ってすごいんだなと思うのだった。ああ、このときはまだ、千花ちゃんがいたのね。千花ちゃんと六花ちゃんが並んで踊っているのを見ると、なんとも言えない気持ちになるし、千花ちゃんがほんとに可哀想になってくる。六花ちゃんが素晴らしい踊りをすればするほど、涙が出そうなほど寂しい気持ちになるのだった。やっぱり山岸凉子はすごいよね。
 ということで、他の作品も読んでみたくて買ってきました。この一冊しかなかったのですが、最初のページで「これは面白そう」とビビっときて購入。
 すごい。これは名作だった。
 昭和20年10月っていうのがいいね。戦後すぐだから、皆まだ貧しいし。北海道の小樽の市場。置き去りにされた光子が寒くてガチガチと震えているところから始まる。このとき光子は4歳か5歳。バタバタと人が行き交うところやビュービューと寒々しい描写が、こっちまでぶるぶると震えてくるほど素晴らしい。その戦災孤児の光子が、十数年間、運命観相を生業とする「白眼子」と呼ばれる異能者と一緒に暮らしていく話なのだが。とにかく当時の風呂場の様子や台所の煮炊きしている描写が正確なのにはびっくりしてしまった。そして白眼子の透明感ある存在も心地よい、ほんとにいい話だった。
 こういうちょっと昔の話を読むと、子供の頃のことを思い出してしまう。
 家の裏のボタ山で、バケツにせっせと石炭を掘って遊んだことや、田舎のうちの五右衛門風呂だと火傷をしそうで入るのが怖かったことや、ふーふー言いながら石炭を入れて風呂を焚いたことなど。しょっちゅう野良犬にも抱きついて、薄汚れていたけど楽しかった。そうそう、駄菓子屋でくじ引きをしてキラキラ光る指輪を集めるのも楽しみの一つだった。まだその頃は、傷痍軍人が街角に立っていたり、ピアノの行き帰りにルンペンに会ったりしていて吃驚していたものだ。
 また他の作品も読んでみよう。