★★
ネットができなくなってヤケクソで購入した本書である。いやいやそれは失礼というものであろう。最近の折原作品は、けちな私が必ず購入している本のうちの一つである。惹句が振るっている。
ある朝、一家は忽然と消えた。
闇よりも深い、黒い沼のほとりで――
名作『沈黙者』から5年。
実際の事件に材をとった
「――者」シリーズ待望の最新作は、
現代ミステリーの最高峰!
「現代ミステリーの最高峰!」ってか。かあー。なんか言いたい放題だな。だけど折原だしな。
そして裏の帯がこれまたものすごく魅力的なんですよ。
埼玉県蓮田市で、ある朝、一家四人が忽然と姿を消した。
炊きたてのごはんやみそ汁、おかずを食卓に載せたまま……。
両親と娘、その祖母は、いったいどこへ消えたのか?
女性ライター・五十嵐みどりは、関係者の取材をつうじて
家族の闇を浮き彫りにしてゆく――。
一方、戸田市内では謎の連続通り魔事件が発生していた。
たまたま事件に遭遇した売れない推理作家の「僕」は、
自作のモデルにするため容疑者の尾行を開始するのだが――。
ねねね。こんな巧いキャッチを書かれたら購入するしかないっしょ。
プロローグの「白い靄」で、折原定番の叙述ミステリーの匂いがぷんぷんする。だけどなんのこっちゃわからないいかにもな始まり。と一転、一家四人が忽然と姿を消したという事件が提示され、推理小説家の「僕」が事件を追っていく。
炊きたてのごはんやみそ汁とおかずを食卓に載せたまま、消えた。という情景が素晴らしい。まさに物語の不穏さを象徴している。読者のあずかり知らぬところでとんでもないことが起こっているのでは、といった事件性の残虐さが暗示されて、いやがうえにも期待は高まるのだ。
だが、蓮田市と戸田市を行きつ戻りつしながらの情景描写は繰り返しあるものの、肝心の当事者の背景、及び心の闇のようなものが描かれてないため、まるで砂を噛むような虚しさだけが残ってしまう。ミステリーだから、というのでロジックが破綻しなければ良いというのではないだろうが、やはり事件であれば、そこに至る人間関係などを描いてくれないと楽しめない。そうでなければ女性ライターの役割も必要ないだろうし、家族の闇なんていう意味深な言葉も無用だろう。
折原お得意の「僕」という一人称を出してきているので、たぶんこの男が事件に関わっているのだろうと予測をしながら読むのだが、残念ながらその作業自体はそれほど面白いとは感じられなかった。きっと魅力的な人物ではないというところが大きかったのだろう。途中から粘着質でストーカーまがいの行動が癇に障ったのがまずかったのだな。きっと。
あっ、と真相ですか?ああそれはですね、「なんじゃこりゃ」で終わりました。つまんねー。